鳥取地方裁判所 昭和23年(行)13号 判決 1949年5月31日
原告
滝山章
被告
小田村農地委員会
同
鳥取県農地委員会
同
鳥取県知事
主文
本訴の中被告鳥取県農地委員会の為した買収計画及び売渡計画についての承認の無効確認を求める原告の訴はこれを却下する。
原告のその余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
請求の趣旨
別紙目録記載の農地及び宅地につき被告小田村農地委員会の樹てた買収計画及び売渡計画、被告鳥取県農地委員会の為した右買収計画及び売渡計画についての承認、被告鳥取県知事の為した右計画及び承認に基く買収及び売渡の各行政行為は何れも無効であることを確認する。訴訟費用は各被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、その請求の原因として、別紙目録記載の農地及び宅地は何れも原告の所有に属していたが被告小田村農地委員会は別紙目録記載一乃至十六の農地につき昭和二十二年七月一日同十七、十八の農地につき同年十二月二日同十九乃至二十六の宅地につき昭和二十三年三月二日買収計画及び売渡計画につきそれぞれ承認を与え被告鳥取県知事はその頃右計画及び承認に基き右各農地及び宅地につき買収及び売渡処分をした。しかし右の中農地はその中別紙目録記載五及び十四を昭和二十一年以来居村の少年団に貸与している外は全部昭和八年から昭和二十三年五月に至るまで原告の自作している農地であるのに被告等はこれを原告所有の小作地であると誤認し前叙のような買収計画樹立、その承認、買収処分に及んだものであるところ(一)凡そ耕作業務が不適正であること以外の理由によつて自作地を買収することは法律上不能であるから畢竟右処分は目的物たる能力のない物について行われた行政行為と謂うべく(二)供出米割当の基本とするため又は小作料改訂の必要上関係行政庁において各農地を調査の上それが自作地であるか小作地であるかを公簿に登載しているのに前叙農地買収に関する行政処分をするに当り右公簿の記載を無視しこれに反する認定をしたことは違法であり(三)前叙農地を小作地と誤認したことは行政行為の要素の錯誤に属し(四)自作地を耕作業務不適正以外の理由で買収するのは強行法規の違反であり以上何れの点から見ても右買収計画、その承認、買収の各行政処分は無効であり従つて又右買収処分の有効を前提とする右農地の売渡計画、その承認、売渡の各行政処分も無効である。又別紙目録記載十九乃至二十六の宅地は何れも原告が訴外人数名に貸与していたがこれらの者は何れも右農地の売渡により初めて自作農となるべき者であるところ右農地の売渡は前叙の通り無効であるから右宅地の買収計画及び売渡計画、その承認、その買収及び売渡処分は何れも自作農創設特別措置法第十五条第一項第二十九条所定の要件に該当しないのに為された違法のものでこれ亦目的物に関し不能の行政行為であり仮に然らずとするも強行法規である同条の規定に違反したものであるから何れによるも無効である。よつて別紙目録記載の農地及び宅地につき被告等の為した前叙各行政処分の無効確認を求めるため本訴に及んだ旨述べた。(立証省略)
被告等訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするの判決を求め答弁として原告主張の農地が何れも原告の所有であつた事実その主張の日その主張の買収計画売渡計画承認買収売渡処分が為された事実はこれを認めるがその余の原告の主張の事実を否認する。仮に原告主張通りの事実関係であるとしても右各行政処分は取消し得べきものであるにとどまり無効のものではないから原告の本件無効確認請求は失当であると述べた。(立証省略)
理由
先づ本訴の中被告鳥取県農地委員会の為した買収計画及び賣渡計画についての承認の無効確認を求める訴の適否につき按ずるに凡そ県農地委員会の承認はこれによつて知事が買収令書または売渡通知書を交付するすなわち買収または売渡の要件が具備せられるにとどまり直接土地所有者その他第三者に具体的の法律効果を生ずるものではないから行政処分ではなく従つて行政処分の取消変更訴訟又は無効確認訴訟の対象とはならないと謂うべきで右の訴は行政訴訟の対象たる行政処分を欠くから不適法として却下すべきである次でその余の請求につき按ずるに原告はその主張の農地の買収計画及び買収処分は被告等において原告所有の自作地を原告所有の小作地であると誤認して為したものであるから無効であると主張するけれども自作農創設特別措置法第三条の規定はこれに違反して為した行政処分を当然無効とする趣旨所謂能力的規定ではなく農地所有者の保護の必要性と自作農創設の必要性とを適当に調和させるため対象となる農地に関し買収に関する行政処分の基準を示し右基準に従つて買収を為すべき旨を命する命令的規定であると解するを相当とするからこの規定に違反して為された行政処分は取消し得べきものであるにとどまり無効となるのではないと謂うべきである。従つて仮に原告主張のように右農地が原告の自作地であるのに被告等がこれを小作地と誤認して原告主張の買収に関する各行政処分をしたとしてもこの誤認を理由として直ちに右農地買収計画及び買収の処分を無効とすることはできないからその無効確認を求める原告の本訴請求は主張自体において失当であると謂わねばならぬ。原告は右行政処分が無効であることの理由として(一)耕作業務が不適否であること以外の理由によつて自作地を買収することは法律上不能であるから目的物たる能力のない物について行われた行政行為であると主張するけれども行政行為が法律上の不能により無効となるには法律上その効果を発生し得べき力を与えられていない場合であることを要し事実の誤認のため命令的規定に違反した行政処分が為された場合にそれが直ちに無効となるべき謂われはなく(二)供出米割当の基本とするため又は小作料改訂の必要上公簿に登載せられている事項を無視して為された行政行為であると主張するけれども行政庁が農地買収の基本となる事実を認定するに当り供出米割当又は小作料改訂の必要上調査せられた結果に拘束せらるべきでないことは多言を要しないところで(三)自作地を小作地と誤認したことは行政行為の要素の錯誤に属する旨主張するけれども法の趣旨はかかる場合に行政行為を無効とするものでないことは前段説示の通りであり(四)強行法規に違反した行政処分である旨主張するけれども民法第九十一条の規定は行政行為に適用はないと解すべきであるから原告の主張は何れも採用し難い。そうすると右農地の買収処分の無効を前提とする右農地の売渡計画及び売渡処分の無効確認を求める原告の本訴請求、右農地の売渡処分の無効を前提とし宅地についての買収計画、売渡計画、その買収及び売渡の処分の無効確認を求める本訴請求も亦失当である。よつて本件承認の無効確認を求める訴はこれを却下すべくその余の原告の請求はこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決した。
(福永 大倉 柚木)
(目録省略)